前回記事を読んでもらえると話の流れがわかりやすいです↓
旅は怠惰に、好奇心赴くままに
休学について↓
休学の本質について考えてみた
*スラム生活、スタート
子供たちが順々に迎えに来た親達に連れられて帰っていく。
嬉々として親に駆け寄る子、なぜか泣きながら親に抱えられて行く子、親を待ちながらぬいぐるみを振り回して遊ぶ子。
部屋の片隅に座って保育園内の様子を眺めていると、どこかふわふわとした不思議な気分だった。
↑(園内の様子)
僕は今、海を越えた異国のスラム街のど真ん中にある保育園の園児達と一緒にごろごろしながら戯れ合ってる。
全ての子供が帰宅すると、ヤオさんはYUKIを通して僕にこう言った。
「泊めてくれる人の家に行くからついてきて」、と。
また不安がジワリと広がり出す。
↑(当時の自分)
この周辺は観光と無縁のはずだからもちろんゲストハウスなどは無い。
そうすると泊まる方法はホームステイか借家をする事だが、この周辺に外国人が住み着く事などまず有り得ないだろうから噂は一気に広まるハズだ。
ここで広まる外国人の噂が呼ぶものなど、正直ロクな事にならないだろう。
そう考えるとここのスタッフの人が信用できる人の家にホームステイすることが一番賢明に思えた。
バラック街の表通りを横目に、周囲の視線や気配を強烈に感じながらヤオさんとYUKIの後ろについて恐る恐るバックパックを背負いながら歩く。
町はどうやら昼間の貌とは違う表情を持っていたようだった。
まばらに点在する街灯の明かりだけが光っていて、周囲の闇を際立たせるのに一役買っている。
しかし、その闇の中で人々が行きかう姿が見える。
「人がたくさん居る所なら夜でもダイジョウブ、でも誰も居ない道に入っちゃダメ」
YUKIは、そう僕に注意を促すと「こっち」とバラック街の途切れる角を入っていく。
ここに辿り着いた時に最初に目にした団地が、そこにはあった。
うろつく野犬の横を静かに早足で通り過ぎながらその団地の中に入っていくと、緊張は更に増した。
階段の壁一面にスプレーやペンキのラクガキが施されていて、やはり団地内も薄暗く全ての部屋の扉には鉄格子のドアが外側に付いている上に、その内側に普通のドアが付いていた。
また階段の排水溝にはネズミの死骸が転がっていたりもした。
↑(炊き出しを配るヤオさん)
僕がこれから泊めてもらう家主がどんな人間かも知らない上に、すぐ隣はスラムでありこの団地も廃れた空気は十分に持っている。
不安と緊張で呼吸が浅くなっていくのがわかるが、YUKIは慣れているのだろう顔色一つ変えずにいる。
ヤオさんは3階の通路に入り二番目の扉の前で立ち止まると、ポケットから鍵を取り出して鉄格子と内側のドアを両方を順に開けた。
「ここの人はヤオさんがさっき会った人の息子の家、大丈夫ダヨ」とYUKIが言う。
そしてどうやらヤオさんはその“さっき会った人”から鍵を預かっていたようだ。
その鍵を僕に渡すと、ヤオさんはこう言った。
「多分9時ぐらいには帰ってくると思うから、それまでのんびりしててね」
YUKIも「じゃあ明日の朝、またねー」と言って帰っていってしまった。
薄暗い部屋に放り込まれた僕はこの状況を冷静に整理してみることにした。
僕はカオサンの宿を引き払ってここに来た、しかしここに宿泊施設は無い。
ボランティアスタッフのヤオさんが昼間にたまたま会って話したおばさんの息子さんの家に僕は泊まる事になった。
そしてヤオさんの親族でもないその家主が帰っていない家に僕は今居る。
僕が彼らに迷惑をかけているのは承知の上だが、それを含めてツッコミどころが多すぎるこの状況は、どう考えても“カルチャーショック”だった。
自分の理解なんてとうに超えてる事は理解した。
「現地人の温かさ」などと一言で片づけるような平和ボケは、これまでの1カ月半ですでに削り落とされていた。
恐る恐る部屋を見回してみると一室とユニットバスのみで、キッチンは無く、小さなベランダが付いてるだけだった。
一室のリビング兼寝床は、大きなパソコンが一台と二段ベットが1つ、そして洋服箪笥が1つだけだった。
しかしこの町の家にパソコンがあるという事だけで少し驚いたことも確かだった、よく見ると青いインターネット有線が引かれている。
ここの住人はどうやらパソコンを使える人間であることから、ある程度の職を持っている事は判断できた。
これから何が起こるかもわからないためバックパックの中身を広げることもできずに、ぼーっと座り込んで時計の長針が二回目の頂点を周った頃、「ガチャッ」という音と共に家主は姿を現した。
20代後半ぐらいの気の優しそうな雰囲気を持つ男性だった事がすぐに分かり、少し安堵した。
また英語を少しだけ話せる事もあって、自己紹介やある程度の意思の疎通もできた。
彼は若手のエンジニアであり、大学も卒業していた。
パソコンあるんですね、と僕が言うと
「パソコンが無いと僕は仕事ができないからね」と、笑いながら彼は言った。
「君の話が聞きたい。僕が分かる限り英語で話してくれ」と、続けて彼は言った。
僕は笑いながらこう返す「まずはビールでも買いに行きませんか?」と。
スラム初日の夜はこうして更けていった。









